
信濃川の祝福 —— 作品『在水一方』(Beyond the Water)から『新潟織夢』(Dream of Niigata)まで
- 王 文志|國際藝術團隊

- 2025年4月7日
- 読了時間: 6分
夏のそよ風が新潟の信濃川の水面をやさしくなで、百年の歴史を持つ萬代橋を映し出している。川岸には、竹編アートの作品が静かにたたずみ、まるで大地と共鳴しながら水と土の記憶の中でそっと息づいているようだ。
これは、2009年に王文志が初めて日本を訪れ「水と土の芸術祭」に参加したときの光景である。地元の人びとは、豊作と不作がたったひとつの雨風で決まることを知っている。そして、芸術はこの地で、私たちに脆くも深い絆があることを思い出させてくれる。
『在水一方』(Beyond the Water) — 大地との共生を創る

王文志は、信濃川のほとりで最初の作品『在水一方』を制作した。竹編み構造の軽くて丈夫な、まるで透明な家は、人びとが訪れるのを手招きするように待っていた。

7月、作品の公開が始まると、地元の人びとは引きつけられたように足を運び、観賞した。芸術祭のディレクター・北川フラム氏もそのひとりで、しばらくその場にとどまり観賞していた。彼は急ぐことなく、この竹建築が環境とどう溶け合い、人びとがここでどのように時間の流れを感じているのかを静かに味わっていた。
地元の人びとに親しまれたこの作品は「バンブーハウス」と呼ばれ、自然の家のようである。しかし、みんなが愛着を抱いたこの作品が、まさか数カ月後に突如襲った台風の強風で倒壊するとは誰が想像していただろう。
そして、さらに驚いたのは、その後地元の人びとが自主的に募金活動を始め、2つの募金箱を設置してくれたことだ。1つは作品の再建のため、もう1つは王文志の制作チームのためである。台湾でも同じ台風の影響で王文志の制作メンバー2人の家が壊されたことを人びとは知り、メンバーの家の再建資金も募ることにしたのだ。
人々のこの心づかいに王文志は胸を打たれた。そして10月には再び作品が完成した。そして12月に芸術祭は無事幕を閉じた。

しかし、この物語はここで終わりではなく、むしろ一粒の種がまかれ、未来に向けて芽吹くのを待っているかのようだった…
『浴火鳳凰』(不死鳥,Phoenix from The Flames) — 氷雪の中で生まれた温もり

3年後、2012年の「水と土の芸術祭」で王文志は再び招かれ、今回は「再生」をテーマに選んだ。
2011年に起きた東日本大震災と福島の原発事故は多くの人々の避難を余儀なくさせ、新潟は福島の人たちの避難先の一つとなっていた。そこで今回、地元の人びとは場所の提供だけでなく積極的に衣類を寄付して、その温もりを作品の中に織り込みたいと願った。

信濃川のほとりに、竹と古着を編み合わせて出来た鳥の巣のような巨大な作品は『浴火鳳凰(よっかほうおう)』と名づけられた。夜になると月光が編み目の間から差し込み、夜風も吹きこんできて、あたかも静かに呼吸をしながら目覚めを待つひとつの生命のようである。
しかし、今回の制作は困難を極めた。震災からちょうど1年を迎えるまでに作品を完成させるため、王文志とメンバーは大雪の中で作業を進めるしかなかった。新潟の冬は骨を刺す寒さで、地元の人びとはその厳しさをよく分かっていたので、わざわざコンテナ車を準備して、中に巨大な暖房器具を積んで、メンバーが氷雪の地で暖を取れるようにしてくれた。

「早く中に入って暖まりなさい!」ひとりの老婦が声をかけたその言葉には、温もりがこめられていた。
「大丈夫ですよ。早く仕上げて皆さんのそばに置きたいんです。」王文志は笑って答えた。
作品が正式に公開されたとき、新潟に避難していた多くの福島県民が訪れてきて、高い場所に繋がれた一枚一枚の服を見上げながら軽く目を閉じ、みんなの思いと願いを受け止めているようであったのが印象的であった。
『新潟織夢』(Dream of Niigata) — 無数の願いを乗せた牡蠣の殻

2015年、芸術祭は3回目を迎え、王文志は再び新潟の地を訪れた。
今回、王は人びとに自ら願いを牡蠣の殻に書いてもらい、作品に入れることにした。牡蠣の殻は時間の痕跡を宿し、かつて海の中で生命を育み鍛えられた姿を残す。そして今、人びとの願いを届ける伝達者となって、川のそばに高く掲げられると、それはまるで川の流れに乗って人びとの思いと願いを遠くまで届けてくれるようだ。
この作品は信濃川の傍らにあり、日本最長の川である信濃川は絶えることのない生命力を象徴している。福島から避難してきた人びと、新潟の人びと、そして各地から来た旅行客はそれぞれの願いを書き記すと、そっと作品の中に置いていった。

「家を離れた人がみんな、温かい居場所を見つけられますように。」
「この土地が、これからも私たちを守ってくれますように。」
夜、そよ風が吹くと、刻まれた願いがいっぱいに乗せられた牡蠣の殻は静かにきらめき、とても美しかった。
振り返ってみると、これら3つの作品はそれぞれ「無常と祝福」「災難と再生」「離散と庇護」という思いが含まれている。それは、単なる芸術作品ではなく、人びとが互いに支え合い、思いやる心の証でもある。
『在水一方』は、風災が作品を壊すことはあっても、人びとの優しさを壊すことはできないと教えてくれた。
『浴火鳳凰(よっかほうおう)』は、大雪の中で誕生し、温かい願いをもって震災の痛みと寄り添い、再生に向かった。
『新潟織夢』は、信濃川の川の流れのように、さまざまな土地からの願いを運び、その思いをさらに遠くへ伝えた。

何年か経ち、これらの作品を思い返すと善意というものは消えてなくなることがなく、人びとはその場限りの助け合いではなく、多くのいろいろな方向からの善意に包まれていることに気づく。
この温もりは、時空を超えて流れ続け、決して途絶えることはない。
もし、人生でうまくいかない時期や挫折に遭遇し、無常や困難を感じても、頭を上げて周りを見わたし、過去を振り返ってみてほしい――温かく優しい善意が気づけばあなたを包みこんでくれているかもしれない。それは、かつてあなたが助けられた瞬間、無言で送られた思い、見知らぬ人から受けた好意、あるいは素敵な物の中など…時空と場所を超え、あなたのそばにやってきて、あなたを慰め、大切に守ってくれる。
もしかすると、こうした善意と美しさは、もともとあなたから離れることなく、毎回異なるかたちで静かに寄り添いながら、あなたが気づき、再び世の中の温もりと愛を感じるのを待っているのかもしれない。





コメント